どうも、映画が趣味のハルクです。
2019年6月1日土曜日に、渋谷で行われた東京国際ろう映画祭に行ってきました!
ホームページに映画祭に目的が書かれています。
本映画祭では、ろうにまつわるテーマを主に中編・長編映画を上映します。ろう者をとりまく手話社会、ろう文化を映した作品を多くの聴者、そしてろう者自身にも観ていただき、その魅力を深く知って頂くことでろう者の社会や芸術の発展に寄与し、聴者とろう者の相互理解の場を創出することを目的としています。
この通り、ろう者やろう文化、手話に関わる映画が上映されます。
4日間でろう者スタッフがセレクトした31作品が上映されました。このうち、5作品を観てきたので感じたことを書いてみたいなと思います。
興味がある方はぜひ、のぞいてみてください!
目次
鑑賞した映画
私が鑑賞した映画は、4つの中編作品と1つの長編作品の5つ。
作られた国も主題もさまざまで、世界各地でろう者を切り取った映画が作られているのだと感慨深くなりました。
- インナー・ミー(INNER ME)
- 監督:アントニオ・スパノ(聴者)
- 公開:2018年
- 制作:コンゴ民主共和国
- コンゴ手話・スワヒリ語・日本語字幕・英語字幕
- 上映時間:32分
- お願い、静かに(Their Voices)
- 監督:水谷江里(聴者)
- 公開:2018年
- 制作:ポーランド
- 言語:ポーランド手話・ポーランド語・日本語字幕・英語字幕
- 上映時間:26分
- キャラメルの言葉(Word of Caramel)
- 監督:ホアン・アントニオ・モレノ・アマドア(聴者)
- 制作:スペイン
- 言語:日本語字幕・英語字幕
- 上映時間:21分
- サイン(Sign)
- 監督:アンドリュー・キーナン・ボルガー(聴者)
- 制作:アメリカ
- 言語:アメリカ手話
- 上映時間:15分
- 手話時代(Sign Language Time)
- 監督:米娜/蘇青(聴者)
- 制作:中国
- 言語:中国語・中国手話・日本語字幕・英語字幕・簡体字字幕
- 上映時間:87分
アフリカからヨーロッパ、アメリカからアジアまで本当にさまざまです。
上映の際も基本的に日本語字幕がついており、十分に内容を楽しむことができました。それにしても、一つの映画で4つも5つも言語が使われているのをみると、圧巻の思いです。
さまざまな人が一つの場所で一緒に映画を楽しむことができる、お祭り感がありました。
コンゴ手話やポルトガル手話を、適切な日本語字幕に変換するだけでも大きな苦労があったと思います。
こんなにもたくさんの映画を楽しむことができたのは、尽力されたスタッフの皆様のおかげです。ありがとうございました!
以下、それぞれの作品の感想や考えたことを。
インナー・ミー(INNER ME)感想
日本から1万キロ以上離れたコンゴ民主共和国に暮らす、3人のろう女性を追ったドキュメンタリー作品。良くも悪くもアフリカの今が迫ってくる、ストレートな作品でした。
コンゴ民主共和国をご存知ですか?
私は名前を聞いたことはあったんですが、場所やどんな国なのかはあいまいでした。
本作を見てあらためて調べてみると、アフリカの中央赤道直下に位置し、世界11位の面積を誇る広大な国です。
私と同じ聴覚障害者も暮らしています。
本作を見て、そんな当たり前の事実を一度も考えたことがなかったことに気づきました。
オリンピックやワールドカップでアフリカの選手たちを見ているにも関わらずです。アメリカやヨーロッパは自然とイメージがうかぶのに。
これはやはり、普段どのくらい目にする機会があるのかに、強く関係するのだと感じます。
ASLやヨーロッパ圏の聴覚障害に関わる情報は、自然と耳にすることが多いです。しかし、アフリカのろう者の情報は、今作ではじめて目にしました。
今回の映画祭で、私の頭の中にアフリカの聴覚障害者という概念が芽生えたんです。映画の力ってすごいなと、あらためて感じる体験でした。
コンゴの聴覚障害者の生活
映画本編では、特に2人の聴覚障害の女性のありのままの生活が映されます。
障害者はコンゴの社会の中で、「無能」と認識されており、良い仕事につけず厳しい生活を送っていました。
朝から晩まで働いてもほんの少しのお金しか稼げない。姪家族の食事からなにからなにまで世話をしなければならないのにも関わらず、家族から離されまったく報われない。
日本とは違いすぎる状況に、愕然としてしまいました。
そんな中でも、子供を育てるために必死で働き、愛情をもって接する姿に圧倒されます。日本で育った自分には、できないことです。
映画では、話をしたり行動している姿だけではなく、なにもすることもなくただじっとしている姿がゆっくりとうつされていました。
なにを見ているのか、どこを見たらよいのかわからないような曖昧な目線。
光と影、未来と絶望、途方に暮れたような目に、中途失聴となり引きこもっていた頃を思い出しました。
一人だけでは立ち向かうことが難しいです。彼女たちに、同じ聴覚障害者の仲間と出会うことができる機会をもうけることが、次への一歩につながるのだと感じます。
日本とはなにもかも異なるコンゴ、遠いようで近くに感じてくる切実なドキュメンタリーでした。
お願い、静かに(Their Voices)感想
ポーランドの聾学校の寄宿舎を、1年にわたって追いかけたすてきなドキュメンタリー作品。
児童たちのいきいきとした自然体が、なによりも魅力的でした!
児童のこんな魅力的な姿をきりとることができるなんて、すごいの一言。
監督は日本人の水谷江里さん、今回はじめて知りました。
ご本人のサイトを見てみると、多摩美術大学を卒業後ポーランドで映画製作を学んだとのこと。
今作はポーランドの映画祭を中心に、多くの賞を受賞したそうです。
私は聾学校に通ったことがないので、寄宿舎の経験もありません。けれど、映画を見て寄宿舎生活もいいもんだなと感じました笑
小学校から高校までの多感な時期に、児童生徒が寝食を共にする。
けんかをしたり、パーティーをしたり、踊ったり、特別に夜遅くまでサッカー代表の応援をしたり。一つ一つの出来事が児童たちの糧となり、仲間と過ごしている姿が頼もしかったです笑
聾学校の寄宿舎での生活を垣間見ることができるすてきなドキュメンタリー、おすすめです!
キャラメルの言葉(Word of Caramel)感想
サハラ砂漠の難民キャンプに住むろうの少年とラクダの物語。
言葉を知らないまま育った少年は、一頭のラクダと出会い、彼の言葉を表現するため言葉を学びはじめます。
さえぎるものがない荒野と砂漠のなかで、少年がラクダと向き合う情景が鮮やかにうつされるのです。
これまでラクダに関心はなかったんですが、見事に魅力されました。
どこ見てるのかわかんないまなざし、意外とふわっとしてる胴体、砂漠と人とラクダの芸術的なまでのベストマッチ。
なんだか新たな扉を開いてしまった気分です笑
そしてなによりも、ひたむきに言葉を学ぼうとする少年の姿勢。
思いを形にしたいって、人間の本能なのかなと思います。絵であれ、言葉であれ、心からあふれでてくるなにかを表現したいことに、理屈なんか後回しだと言わんばかりのひたむきさでした。
本作の一番の魅力だと感じます。
一人の少年がラクダと砂漠と共に思いを形にしていくまで。おすすめです。
サイン(Sign)感想
毎朝通勤電車の中で、顔を合わせていたアーロンとベン。
お互いを気にしながら日々を過ごす中、アーロンはベンに声をかけます。返ってきたのは手話でした。LGBTをテーマにした、異文化ラブストーリー。
一本の恋愛映画として、非常にうまくまとまっていて、ストーリーにどっぷりつかることができました。
2人が出会い、恋におち、手話を覚え、お互いを知っていく。
相手のことが知りたい、自分のことを知ってほしい、そんな思いが画面からあふれていてあたたかい気持ちになりました。
ぎこちなく「I」「 love」「you」をしようとするアーロンに、ベンが手を「I love you.」の形に変えていく愛にあふれたシーン。
あらためて伝えたい、わかりたい気持ちがコミュニケーションの基盤にあるのだと教えられました。
ただ、全編アメリカ手話(ASL)のみで半分くらいはわかったんですが、肝心なけんかの原因がわからず笑
それでも、仕草から表情から気持ちがぐわーっと伝わってきて、すごいなと思いました。
この映画祭だけでなく、聾学校や全国のミニシアターなどで上映して、多くの人に見てもらいたいなと思う映画でした。
映画の内容をもっと知りたくて、手話に興味を持つ人も増えるんじゃないかな笑
手話時代(Sign Language Time)感想
中国のろう者の今を描くドキュメンタリー作品。2005年から5年間かけて撮ったそう。
中国各地のろう者のもとを訪ね、生の声を集め、一つのドキュメンタリーとしてまとめたことがものすごいです。
本編の多くがろう者本人のインタビュー動画で占められ、断続的に流されつづける生々しい今に、信じられない思いでした。
中国の開発計画でろう者の働く場がなくなっていること、盗みに手を染めるろう者が多いこと、大学では絵しか学べず、手話通訳者もほとんどいないため病状をうまく伝えられず亡くなる人も多いこと。
もちろん今はよくなっているところもあると思いますが、日本と違いすぎる状態に、信じられない思いでした。
映画が撮られた2010年といえば、ちょうど中国が日本のGDP(国内総生産)を超えた頃です。国が上向きな中で、障害者向けの政策は後回しになっていることを感じます。
実際にインタビューの中でも、共産党や地方政府の話がたくさんでてきて、特に障害者の制作に関わる民政局の話がよく聞かれました。
話がいろいろと濃すぎて、いまだ消化できていないです。
ただ自分がまだ生まれる前の日本にも似た時代があったのだと、これまで本でしか読んだことがない話に実感がめばえました。
監督と出演者のトークショー
上映後に、監督と出演者、映画祭代表の牧原さんをまじえたトークショーがありました。
そこで語られたのは、監督の映画を撮ったきっかけや、その後の中国の今、撮影中の話など。
監督が本作を撮ろうと思ったきっかけは、ろう者の兄がある日突然家を出ていき、数年後心臓の病気でなくなった出来事にあるそうです。失踪している間、なにをしていたかはわからなかったとのことでした。
その後映画監督となり、5年間かけて中国各地の中高年のろう者を中心に話を聞きまとめものが本作。
とても近い距離に焦点をあてて、ろう者の生活に迫っていることにうなずかされました。
また現在は2つの学校で聴者に手話を教え、通訳者を養成しているそうですが、中高年の手話は自然手話と呼ばれ、より中国語に変換することが難しいこともあり、まだまだ厳しい状況が続いているそうです。
今回はじめて監督や出演者が登場するトークショーに参加しましたが、さっき見たばかりの映画を撮った人や出演した人がすぐそばにいるって、不思議な気持ちになりました。
作品の中で、なんでだろうと思ったことをすぐに聞けるってすごい贅沢な場所だったな思います。
他にも監督がろう者と共に働くレストランの経営をはじめたり、一人っ子政策との関係だったり、いろいろ興味深いお話を聞くことができました。
これまでまったく知らなかった中国のろう者の生活について、かいまみることができるすぐれたドキュメンタリー作品です。上映される機会があれば、ぜひ見てみてはどうでしょうか。
東京国際ろう映画祭全体を通して
4日間の開催期間のうち、1日しか参加できませんでしたが、とても楽しむことができました。
スタッフの皆さんもとても丁寧に手話で対応してくださり、安心して映画に集中することができました。
「手話時代」のトークショーでは、日本手話の通訳者、アメリカ手話の通訳者、国際手話の通訳者、日本語音声の通訳者、UDトークの誤字を修正する人(日本語・英語)など本当に多くの人が、一つのステージをつくりあげていて、アクセシビリティの概念がそのまま形になったような場所だなあと。
1日にしか参加できなかったことが、悔やまれます。ぜひ他の作品を見てみたいなと思う映画祭でした。
スタッフの皆さん、すばらしい映画祭をありがとうございました!